本のない人生なんて。The Booksellers

試写を見せてもらった。

2019年にニューヨーク映画祭に公式出品された作品『 THE BOOKSELLERS 』( 監督 : D ・W・ヤング| 99 分|16:9|5.1ch)

ブックセラーズとは、希少な本の売人のこと。
つまり古書店主だ。だが、ここでのブックセラーズはもう少し幅が広い。
本の売人が語る本の奥深さ、本を売ること買うこと、売人になることの奥深さを登場する14人のブックセラーたちが語るドキュメンタリー映画だ。
古書にまつわるこれでもかという話を繋ぐのが、作家、映画評論家、文化評論家でジャーナリストのフラン・レヴォウィッツ。皮肉とユーモアのあるコメントがいい味を出している。 どこかで見たような顔なのだが……

古書店主がこの業界に入った経歴を語ることで全体の流れを構成しているのだが、これから始めようとする若いカップルもいれば、祖父の代からの家業としている者もいる。それにより、古書街の歴史を辿る縦軸をしっかり描きながら、伝統的な革装から本を超えたハガキ・手紙からチラシへと横方向への広がりも忘れず、この世界の広さ、奥深さを余さず伝えてくれる。

本にまつわる逸話もてんこ盛りだ。著者が存命だった時期に発行されたドン・キホーテの版本は12万ドル。その金額にスペインの作家が涙した理由を語る。手書きの本、手稿もある。レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿が史上最高額をたたき出した話も出てくる。不思議な国のアリスも出てくれば世界で数冊の本の話も出てくる。もちろんグーテンベルク聖書は外せない。


この映画がよくできているのは、単なる希少本の趣味の世界の紹介に終わっていないこと。このマニアックな世界を覗くことで現代社会というものを浮かび上がらせ、課題を突き付けている点にある。この業界もご多聞にもれずネット社会の影響を受けている。ネット社会は本の購入のカタチを変えただけでなく、本を買う前提となる読書を揺さぶっているのだ。

コレクターこれもまた重要な登場人物。ある作家は、図書館のコレクションに女性史がないのに気がつき、収集を始めた。そして話は、古書業界の女性問題へとつながる。別の若い編集者は、ヒップホップの情報を求めそれまで対象と考えられていなかった雑誌や紙類を文化の断片とて収集を始めた。
作家の残した原稿、取材メモなどの資料を一括して保存したいという話も出てくるが、ニューヨーク公共図書館長はコレクションの延長にアーカイブがあると語る。


含蓄のある言葉も。 「本は我々の存在と知識の文化的DNAである」
自分の本の行く末を考えたことのないブックセラーはまずいない。古書店主の中には、未来に悲観的な気持ちを持っている者もいる。が、やめようなんて思っている者は一人もいない。それは、本の狩人として、ディーラーとしてのこのひと言に表れている。
「何万冊もの本を集めるのは“ワォ!”と言いたいから」
古書店主たちのいきいきとした口調がこのドキュメンタリーを魅力的なものにしている。

公開は4月23日から。マニアックな古書の世界が堪能できます。